【第4回】わかりきった未来予想図を破ってみた
高松、コトデン瓦町駅の近くで古本屋さん・なタ書を営んでいる藤井佳之さんは、20代のころは東京のとある大手出版社で働いていた。
あるときから、藤井さんは、自分の未来が予想できるようになったという。
このままこの出版社にいたら、10年後はこうなって、20年後はこうなるだろうな。
そして、疑問が浮かんできたそうだ。
わかりきった道筋を、その通りに歩いていくことに、何の意味があるだろうか。
そもそも自分が東京(横浜)に出てきた理由は?
東京の出版社で働く必要があるのか?
どうせ将来の見える暮らしをするのなら、別に東京でなくてもいいし、地元で別の仕事をしてもいいじゃないか。
自問自答の末、藤井さんは29歳のときに大手出版社を辞め、高松に戻ってきたそうだ。
そして、まずハローワークに行き、新しい就職先を探したという。
そこで求人情報を見て、藤井さんは愕然とすることになった。
「高松の人って、こんなに働いてこれだけしかお給料もらってないの!?こんなんで生きていけるの!?」
こりゃ、いかん。
藤井さんは、「それなら自分でお店をやろう」と思い立った。
そう、古本屋さんを……ではなく、古着屋さんを!!
藤井さんは古着屋さんが好きだったそうだ。
ところが、高松にはすでに古着屋さんがあった!
じゃあ、ほかに自分が好きでやりたいことは……と考えたとき、すでに高松に根付いている分野は選択肢から外していった。
すると、唯一、高松になかったのが「面白い古本屋さん」だったのだ。
なタ書を開業しようとしていた2006年頃、東京にはビレッジバンガードなどのユニークな店が多数あったが、高松にはビレッジバンガードはなかった。
若い人がやっている古本屋さんというのもなかった。
どうせお店を開くなら、今までの高松にないお店がいい。
誰もやっていないことをやって、面白がってくれる人がいたらいい。
こうして、なタ書は誕生した。
藤井さんは、開業当初は、「古本屋さんってこんな感じだろう」というイメージで営業していたそうだ。
さて、前回でもお話したが、藤井さんは開業当初、古本屋さんだけで食べていけるとは考えていなかった。
やはり、オープン当初からお客様満員御礼・売上バンバンというわけはなかった。
現実は厳しい。
そのため、コスト削減も考えて打ち出した方法が「予約制」。
必要に駆られて始めた予約制は、今やなタ書の個性となっている。
必要だからやったことがお店の旨味に変わる。
どんなアイディアが、いつ、どこで、誰に「面白い」と感じてもらえるのかわからないことが、また面白いではないか。
今もなタ書は予約制をとっているので、確実に行きたい方は必ずご予約を。
気まぐれに行ってみて、開いているか開いていないか運試しをしてみたい方は、高松散歩がてらになタ書に足を運んでみてはいかがだろうか。
まだまだなタ書の魅力は尽きない。
次回は、なタ書の裏の顔に迫ってみよう。
店舗情報
「なタ書」の情報と予約方法はTwitterをチェック▶︎https://twitter.com/KikinoNatasyo
夏也園子
1986年7月31日生まれ。
小説マンガゲーム好きで基本雑食。
最近はなにも読めていない・できておらず(涙)
2014年『フェチクラス』(双葉社)でデビュー、
ほかに『リアルアンケート(上・下)』(KKベス トセラーズ)がある。
最近はホラーだけでなく別ジャンルにもチャレンジ中&新たに本を出版すべく奮闘中。
☆2017年『大原美術館とあなたが紡ぐ物語~小川洋子がいざなう朗読会Ⅲ』にて入賞しました。
https://www.ohk.co.jp/ohara/