子どものころに、大きな木の下のあなぐらや、錆びたドアからこそっと入れる空家を自分だけの「秘密基地」にして遊んだことがある人はいないだろうか。
高松、コトデン瓦町駅の近く。
いつもとはちょっと違う路地に入ってみようかなという気持ちで入ってみた道に、プレハブの建物。
オープンしていなければ、取り壊し忘れられた建物だと勘違いして、すっと通り過ぎてしまいそうだ。
しかし、見逃さない人はきっと見逃さない。
プレハブの建物の入口そばに、「なタ書」の看板があることを。
オープンしていれば、さまざまな色や質感、なんだか匂ってきそうな本たちが顔を覗かせている。
冒険心をくすぐる階段が見える。
なタ書は、まるで絵に描いたような秘密基地だ。
その実態は、いたずらしても叱られるだけで許された子どものころに戻れそうな古本屋さん。
今回は、ジブリ映画にでも出てきそうな古本屋さん・なタ書をご紹介していこう。
【第1回】店主は後ろから現れた
「こんにちはー!」
今回の取材の同行者の声がなタ書店内に響き渡る。
「こんにちはー!」
階段をひとり登って行ったその声は何度も聞こえるのだが、肝心の店主らしき方の返事がない。
なんと、店主がいない。
約束の時間よりも30分近く早く来てしまったからか。
しかし、店は開いている。
なんとも、無防備であっけらかんとした店だ。
入口付近に重ねて置いてあった、小さいころに見たことがあるような世界文学全集に目を奪われていると、背後に人の気配を感じた。
「あ、どうも」
という、なんともラフな感じで、店の外からなタ書の店主・藤井佳之さんは現れた。
「どうぞ、どうぞ。上がってください」
藤井さんは、近くのコーヒーショップで購入したと思われるアイスコーヒーを片手に、ひょいひょいと木の階段を登っていく。
ギシ、ギシ。
階段だけでなく、2階の木の床もまた、歩くとところどころ音を立てる。
床を強く踏むと、ちょっとへこむ。
入口から冒険心をくすぐられてはいたが、2階に広がる色とりどりの本たちの空間は、もっと好奇心を刺激されるものだった。
すべてを見ていただくことはできないが、なタ書の雰囲気を少しだけ、感じていただきたい。
なタ書の生きた空気感は、是非、お店に直接足を運んで味わっていただきたいと思う。
次回から、いよいよ藤井さんへのインタビューをメインになタ書をご紹介していきたい。
店舗情報
「なタ書」の情報と予約方法はTwitterをチェック▶︎https://twitter.com/KikinoNatasyo
夏也園子
1986年7月31日生まれ。
小説マンガゲーム好きで基本雑食。
最近はなにも読めていない・できておらず(涙)
2014年『フェチクラス』(双葉社)でデビュー、
ほかに『リアルアンケート(上・下)』(KKベス トセラーズ)がある。
最近はホラーだけでなく別ジャンルにもチャレンジ中&新たに本を出版すべく奮闘中。
☆2017年『大原美術館とあなたが紡ぐ物語~小川洋子がいざなう朗読会Ⅲ』にて入賞しました。
https://www.ohk.co.jp/ohara/