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【第5回】なタ書はアイディアの発信拠点!?
高松の古本屋さん・なタ書の店主の藤井佳之さんは、さまざまな顔を持っている。
古本屋さんを営む傍ら、瀬戸内関連の雑誌で記事を書いていたり、公演会に出向いたり、生活費のための仕事に出向いたり……。
さまざまなことを行っているが、藤井さんはあくまで「なタ書の店主の藤井さん」である。
藤井さんは、拠点を持たずになんでも仕事を引き受けていたら、ただの得体の知れないなんでも屋さんになりかねないという。
ライターという仕事ひとつとってみても、50代になって「なんでもできます」と仕事を求めてきたとしても使い勝手が悪いと感じられてしまう可能性が高い。
基盤を持たずに目先の仕事だけを選んでいると、器用貧乏になるだけだという。
それではいけない。
藤井さんは、「なタ書の店主」として記事を書くし、他の仕事も引き受ける。
「なタ書の店主」として仕事の依頼をされる。
なタ書の店主であるということは、信頼されるための肩書きを持つということでもあるのだ。
仕事をしていく上で、イメージ作りは大切である。
ときどきイベントに顔を出すのは、本を売りに行くというよりも、なタ書を宣伝するために行くのだそうだ。
「こんな人間が、こんな古本屋をしていますよ~」
なタ書の顔を売りに行くのである。
さて、なタ書店主の藤井さんには、悩める子羊の相談相手という一面もある。
店内にも「相談室」の看板が掲げてある。
なタ書にはいろんな相談がやってくる。
「そもそも、なんの悩みもなくて幸せな人が本屋さんになんか来るわけないでしょう。何かしら悩んでいるから本屋さんに行くんでしょ?」
というようなことを藤井さんに言われて、私はひどく納得した。
参考書ひとつ取ってもそうだ。
例えば数学が最強に苦手だったとして、でも数学を克服しないと行きたい学校に行けなかったとして、そんな自分でも「これならわかる」という参考書が欲しかったらとりあえず本屋さんに探しに行くしかない。
なぜなら、ネットでは人の感想しかわからないし、人のアドバイスが自分に当てはまる保証なんてないからだ。
自分の目で見て確認して、答え探しをするしかない。
藤井さんは、ときにはビール片手になタ書を開いているそうだ。
悩み相談を受けながら、ときどき舌好調になって毒を吐きまくり、遠慮なくダメ出しをすることもあるという。
なタ書にやってくるお客さんとはよくお話をするそうだ。
本と無関係な会話も多い。
話をしていて、そのまま店を閉めてから飲みに行くこともあるらしい。
懐かしさも斬新さも同じ空間に存在する古本屋さん・なタ書。
自営業となった今では、藤井さんは先々のことを思い描いて行動しているという。
なタ書は、過去も未来も、今この瞬間に同時に存在しているみたいだ。
誰もがスマホやパソコンを持ち、すぐにメールやツイッターができるこの時代。
ちょっと異空間に遊びに行ってみたい方は、さっそく、なタ書に予約のメールを打ってみてはいかがですか?
↑本棚に住んでいるトリケラさん。
いつから住んでいるのか、藤井さんもわからないらしい。
これを見て、私はBUMP OF CHICKENの『宇宙飛行士への手紙』を思い出した。
店舗情報
なタ書〒760-0052住所 香川県 高松市 瓦町2丁目 9-7-2F「なタ書」の情報と予約方法はTwitterをチェック▶︎https://twitter.com/KikinoNatasyoこの本屋さんを紹介した記事...
「なタ書」の情報と予約方法はTwitterをチェック▶︎https://twitter.com/KikinoNatasyo
インタビュー後記
なタ書の店主・藤井佳之さんは、飄々としていて掴みどころのない感じの方だと思った。
「お金にはシビアですよ、商売ですからね」
というようなことを仰ったかと思ったら、
『山田太一セレクション 思い出づくり』(山田太一:著/2016)を買うとき、「60円まけて2100円にしときます」と仰ってくださった。
藤井さんのインタビューを終えてから、私は20代後半の、焦りとも不安ともとれる、ジリジリした感覚を思い出した。
「これでいいのか?」
親元から離れて、独り立ちして、自分で選んで進んできた道のはずなのに。
「こうしよう」って決めてそのとおりに歩いているはずなのに。
他にも道が見える。
見えない道もある。
隣の芝生が青く見えたり、ただ過ぎていくだけの時間が虚しかったり。
思うように動いているようで、思うようにはいかない。
時間は戻らないから、取れたはずの選択肢を取らなかったという後悔をしても仕方がない。
藤井さんの言う「必要なこと」をしていたら、いつかそれが旨味に変わるのだろうか。
なタ書の予約制みたいに。
私はいまだに、将来が予想できた試しがない。
この先どうなるかなんて、いつだってわからなかったし、今もわからないし、今この瞬間に起こっていることなんて昨年の私はまったく想像などしていなかった。
ただひとつ、信じていることがあるだけで、そのために必要だと信じていることをしているだけで。
必要に応じて、堅実に進むこともいいだろう。
冒険したいならしてみてもいいかもしれない。
大切なことは、それが自分の人生を豊かにしてくれるかどうかなのではないだろうか。
その豊かさとは……と語り出すと止まらないのでこの辺でやめておこう。
ただひとつ言えるのは、なタ書に行くと、自分と向き合える気がするということだ。
なタ書で過ごさせて頂いた時間だけでなく、いろいろと考えるきっかけをくださった藤井さん、ありがとうございました。
そして、取材に同行してくださった戸川さん、なタ書を教えてくださった編集長、ありがとうございました。
迷いや悩みを抱えている方は、高松まで小さな冒険をしてみてください。
オススメです(*´ω`*)
↑ちなみに、こちらはなタ書のために描かれた漫画です。
私が行ったときには無料でしたが、そのうち有料になるそうです。
手に入れたい方はお早めに!
2017年10月23日 夏也園子
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夏也園子
1986年7月31日生まれ。
小説マンガゲーム好きで基本雑食。
最近はなにも読めていない・できておらず(涙)
2014年『フェチクラス』(双葉社)でデビュー、
ほかに『リアルアンケート(上・下)』(KKベス トセラーズ)がある。
最近はホラーだけでなく別ジャンルにもチャレンジ中&新たに本を出版すべく奮闘中。
☆2017年『大原美術館とあなたが紡ぐ物語~小川洋子がいざなう朗読会Ⅲ』にて入賞しました。
https://www.ohk.co.jp/ohara/