NetGalleyのすすめ【第15回】 ~ 広島 蔦屋書店 江藤宏樹さん インタビュー記~

【一期一会】

茶会に臨む際には、その機会は一生に一度のものと心得て、主客ともに互いに誠意を尽くせ、の意。(大辞林)

転じて、出会いは一生に一度だと思って大事にしようという意味でよく使われる。
これは何も「人」に限ったことではなく、なんとなく入ったお店で、まれに「一期一会」な商品に出会うかもしれないが、恐らくこの書店なら、その確率は100%だ。

こんにちは、るなです。本屋さんTRIP「NetGalleyのすすめ」のライターを務めることになりました。どうぞよろしくお願いいたします。
さて、今回の書店員は、広島 蔦屋書店の江藤宏樹さん。ネットギャリーをずいぶん前から使っているとのことで、お話を伺ってきました。

広島 T-SITE「広島 蔦屋書店」

広島市西区にある「LECT」の中の広島TーSITEの一角にある広島 蔦屋書店。
車で来ることができる便利な立地の書店で、近場の方はもとより少し遠方からでも来店しやすく、主に平日は若いファミリー層、休日はあらゆる年代の方々で盛況だ。

店内に入ってみると、まずこの本棚に圧倒される。昔観た海外の書店の壁面を思い出す。
まるで“本の森”だ。もっとも、こういう森なら喜んで迷い込みたいが。

次に目に飛び込んでくるのは、大小様々あるたくさんのフェアの棚。馴染みのある作家の本の間に見かけない本も並んでいて、売り場に独特の雰囲気を醸し出している。その、たくさんのフェアを手掛けているのが、広島 蔦屋書店の文学コンシェルジュこと江藤宏樹さんだ。

家具屋から地元の書店員。そして、文学コンシェルジュに。

江藤さんは、新卒でまずは老舗家具屋さんの販売員になったそうだ。
その家具屋さんでは、オーソドックスなものから高級な婚礼家具まで、様々な家具を扱っていたが、一生で1回買おうかという大きな買い物の1つでもある家具になると、決して安くはない。だから、買う方も買ってもらう方も、まさに一期一会の気持ちで真剣に選びに来られる方ばかりだった。もちろん江藤さんもお客様と同じ気持ちで、心と言葉を尽くしてお客様に接してきた。

そして、その販売員としての仕事の中で、大きな目標を立て、見事それを達成したあと地元の書店へ転職。その後、広島 蔦屋書店のオープニングスタッフとして再転職し、現在に至る。

別業界の視点から本の深みを感じさせる

書店員になった当初は、同じ小売業でも家具販売とは全く違う世界でかなり面を食らったそうだ。特に、商品の仕入条件、再販制度、在庫管理などにある独特なルールに四苦八苦したという。しかし、それは江藤さんだけに限ったことではなかった。
なぜならこの広島 蔦屋書店には、異業種出身のスタッフが多く在籍しているからだ。

例えば「元幼稚園の先生」が児童書を担当し、「元旅行会社にいた旅のプロ」が旅行書を担当する。だから、単に楽しく絵本を読み聞かせるのではなく、情操教育を考えた読み聞かせや、どういうツアーでどれくらいの予算を用意して行けば最高の旅になるかを見据えたアドバイスと、本のおすすめが同時にできる。文字通り職人技だが、書籍販売に関しては初めて。他のスタッフも最初は苦労されたそうだ。

広島 蔦屋書店の売り場には、そういった「その道のプロ」たちが、その本を読んだあとの世界をイメージできるような導線を引き、読者のあらゆる好奇心を刺激させる工夫がちりばめられている。
それでは順番にその売り場を紹介していこう。

広島 蔦屋書店コンシェルジュ新刊セレクション

年間の新刊刊行点数は7万冊を超えると言われている。平均すると、毎日約200冊以上の新刊がこの世に送り出されていることになるが、当然のことながら、書店には全部が入荷してくるわけではない。
となると俄然気になるのが入荷しない本。もちろんそれらの中にも面白い本はたくさんあるはずだ。そこで江藤さんは、少しでも本と人が出会う機会をつくりたいという思いから、通常の新刊売り場とは別に、こうしたセレクションのコーナーを設け、1冊1冊の本に光を当てている。

江藤さんが発注しなければ、入荷することはなかっただろうラインナップが並ぶ新刊棚で産声を上げた新刊たちは、今日も「一期一会」を静かに待っている。

▲江藤さん独自のセンスが光る新刊たち。ジャンルも幅広い。

人文書の平台展開

▲普段は棚に1冊収まっていることが多い人文書。改めて平台で見ると、全く違った本に見える。

80年代にフォーカスしたフェア
「今を生きる CITY BOYS & GIRLS のための ニュートロ講座」


▲ニュースや世相をチェックし、世の中の動きにタイムリーに反応したフェア。こちらは、最近過去のテレビ番組の再放送が続いていることにインスパイアされてできたもの。

リトルプレスフェア

▲珍しい本がズラリ。ここでしか出会えない本が一堂に会している。

江藤さんのアイデアや選書力、着眼点や情報発信力が光るフェアが店内所狭しと並び、全てを堪能しようと思うと、到底1日では足りないことにすぐ気づいてしまう。
しかし、どの書店でもそうだと思うが、フェアには展開期間がある。

店内を巡りながら見た本、手に取ってちらっとめくったあの本。
次に来た時に買おうかなと思って立ち去ったら、その次にはその本はもういないかもしれない。
そういうのに限ってタイトルまでは覚えていなくて、取り寄せたくてももう出来ない。
その時、その瞬間の本との出会いは、「一期一会」なのだ。

ネットギャリーからヒントを得たビッグヒストリーフェア

▲1冊の本から哲学、SF、社会や環境問題まで、専門書から児童書までジャンルの垣根を飛び越える選書。

実は江藤さんは熱心なネットギャリーユーザーで、登録したのもかなりと早かったという。このビッグヒストリーフェアは、ネットギャリーで読んだある本がきっかけで生まれたのだ。
その本は、宇宙の始まりから生物誕生、我々人間の生きる現代を経て未来までを考察する人文書「オリジン・ストーリー 138億年史」。

 

一般的にフェアを考える時は、テーマを決めて、発売されている本の中から選書していくことが多い。
だが、このビッグヒストリーフェアは完全に逆である。まだ発売もされていない1冊の本から派生していき、大きな一つのフェアとして集合体を成していった。

どうしてそんなことができたのだろうか。
答えは明白。オリジン・ストーリーを発売前に全文読むことができたからだ。
発売前の書籍情報では、売れ行きや評判もわからないため、仕入れするか否かの判断は難しい。しかし、ネットギャリーで事前に全文が読めるため、そこで読んで自らの目で確かめることができれば、何のためらいもなく、むしろ自信を持ってフェアを作ることができ、お客様へ提案することができるのだ。

通常通り、発売してから読み、フェアの準備を始めるのは、その本の旬の時期を大きく逃しかねない。その本が一番みずみずしい時期に、手に取ってもらいたいと私も思うし、その書籍を仕入れようと思ったとしても、発売直後は出版社の在庫状況によっては仕入れられない場合だってある。そもそも手に入らない事態に陥ってしまう。だからこそ、発売前に読んで事前に準備したい。

また、江藤さんはオリジン・ストーリーのWEB書評まで「広島 蔦屋書店が選ぶ本」に書いて発信している。発売前にじっくり読んでいるからこそできることだ。

ネットギャリーには、このオリジン・ストーリーのような人文書を始め、科学書、ノンフィクション、翻訳書など、紙のゲラとしても書店員に配布される機会が少ないジャンルのラインナップが掲載されている。また、出版社が推している作家や新人作家、埋もれてしまった既刊本などの作品も多数掲載されていることなどから、江藤さんのアイデアのアンテナによくひっかかるという。
そして、ネットギャリーで読んではコーナーを設け、本や作家と読者の一期一会を創り出している。

広島 蔦屋書店の読書会×NetGalley

そんな江藤さん、売り場で一期一会を提供するだけにとどまらず、広島 蔦屋書店で読書会まで作ってしまう。
小さい頃から本が好きだった江藤さんだが、本について語れる場が周りにはあまりなく、寂しい思いをしてきたそうだが、書店員になってそういう話ができた時、いたく感動したそうだ。この経験が、書店員とお客様という関係を超えて、本が好きな人たちと本について語る場所で、もっともっとこの広島 蔦屋書店を楽しんでもらいたいと考えるに至ったというわけだ。

こうして、「広島 蔦屋書店の読書会」という場所が生まれ、自分が読んだ本を語りたい方、おすすめしたい方、本の話を聞きたい方、いろんな方が毎月の開催を楽しみにして参加されている。

そして、江藤さんはその読書会にもネットギャリーを導入させたのだ。
思い思いの本を持ち寄って行う読書会や、課題図書を設けてみんなで感想を語り合う読書会。色々な形があるが、江藤さんの考えた読書会というのは、全員が同じ本をネットギャリーで読んで、様々な角度からその本の魅力を引き出し、レビューを投稿する読書会。
ブックサポーターとなった参加者の方々が、これから世に出る本の背中を力強く押す。

今回広島 蔦屋書店で取り上げられた書籍がこちら

メフィスト賞を受賞し、発売前から期待値の高かった作品。そこに、生粋の本好きからのレビューが発売前に寄せられるということは、作家にとっても、作家と二人三脚で本を作ってきた編集者にとっても、心強い味方を得ることになる。

そして、読書会で集まったレビューを掲載した「広島 蔦屋書店×NetGalley×講談社」の特製パネルまでも作ることになった。
こうして、パネルを作った宣伝部、パネルと一緒に商品展開するために商品と物流を手配した販売部など、様々な一期一会の連続で作り上げた売り場が光を放ち、お客様へ届けられたのだ。

▲こちらがそのフェア台。広島 蔦屋書店だけのオリジナルパネルがひときわお客様の目を引く。

また、読書会の中には、このジャンルの本を今まで読んでこなかった方たちもいた。この企画をきっかけにまた一つ出会いが生まれたというわけだ。
特に、これまでお客さんの側だったメンバーたちは、自分のレビューがパネルになり、それを読んで本を買ってもらえる機会ができるだなんて、思ってもいないことだったという。本好きにとって、最高の体験です!と、大興奮だったそうだ。

たった1冊の本を巡って本当に一期一会、奇跡のような出会いを提供することができ、ますます江藤さんの一期一会の場所に対する想いは強くなったそうだ。

ちなみに前述のリトルプレスフェアは、この読書会で出会った方から頂いたアイデアで生まれたもの。江藤さんも出会いをたくさんもらっているんですって。

ネットを駆使し、リアルを超えて一期一会を作り出す

もはや一期一会仕掛け人と言っても過言ではない江藤さんだが、新型コロナウイルスの影響で店舗を休業しなければならない時期があった。ここで、せっかくつないできた本との出会いをここで途絶えさせることをしたくなかったため、なんとYouTubeで「テレ本ショッキング」という番組をつくって、おうち時間でも本との接点を提供できる場を作り出してしまった。

テレ本ショッキングがどんなチャンネルなのかは見てもらった方が早い。
動画の撮影から編集まで江藤さんが一人で手がけている。今まで見るだけだったが、実際に編集作業をやってみると身に染みてわかる大変さ。「実はユーチューバーはすごいよ」と江藤さんは笑う。

広島 T-SITE 広島 蔦屋書店 YouTubeチャンネルはこちら

改めて、本と人との一期一会の場所を作りたいという江藤さんの気迫に圧倒される。いやはや、参りました。
これからは、オンラインでのイベントもたくさんやっていきたいとおっしゃる江藤さん。
それは、リアルで人と会えないからというネガティブな理由ではなく、物理的距離を超え、全国の人たちに一期一会の場所を作りたいという想いから。
そのイベントを考える時のアイデア作りにも、書店員、出版社、読者をつなぐネットギャリーが、そばにある。

とてもスマートでダンディーな江藤さんですが、趣味を通り越したアスリート選手の如く没頭されているけん玉の話になった時の目の輝きと笑顔が忘れられません。
どこまでも人の想いに寄り添う「一期一会のプロ」さすがでした。

▲文学コンシェルジュ 江藤宏樹さん。けん玉の腕前は「テレ本ショッキング」を要チェック!

インタビュー後記

私が書店で専門書を担当していた時、取次の発注システムに張り付いて、ジャンルの本を1冊ずつ見ては選書して発注するかどうか決める。をひたすら繰り返していた。これはかなり骨の折れる作業。選書の話になったとき、江藤さんも全く同じ作業を今でも毎日行なっていることを知った。だからこそ、その思いの結晶に強烈に共感できたし、広島 蔦屋書店が身近にあるエリアの方々が羨ましくなった。通えるものなら毎日でも通いたい。
また、エリアの制限を飛び越えたネットでの情報発信もこれからますます楽しみだ。

【広島 蔦屋書店】

広島T-SITE 広島 蔦屋書店
〒733-0831 広島県広島市西区扇二丁目1-45
TEL:082-501-5111
営業時間:08:00-22:00.

るなプロフィール

関西圏在住
銀行員から塾講師、書店員を経て企業広報とウェブライター
得意なのは泣ける書籍紹介
三度の飯のうち二度までは本

連載:NetGalleyのすすめ~書店員インタビュー記~
▶︎https://honya-trip.com/tag/netgalley/

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