NetGalleyのすすめ【第11回】～柳正堂書店甲府昭和イトーヨーカドー店インタビュー記～

「女性作家の綴る本屋さん巡り」

NetGalleyのすすめ【第11回】～柳正堂書店甲府昭和イトーヨーカドー店　インタビュー記～

2020.02.21

▲（写真）店長青柳力さん（左）、文芸・文庫担当山本机久美さん（右）。
今、イチ推しの本を手に。

心温まる共感を集める本屋さん

今回から東エリアを中心にNetGalleyユーザーを取材することになりました、じゅん麗香です。以後お見知りおきいただけますと幸いです。
このたび伺ったのは、山梨県にある柳正堂書店甲府昭和イトーヨーカドー店。先回りをして顧客のニーズに応えるような、丁寧な店づくりをしている本屋さんです。

柳正堂書店は1854年（嘉永7年）創業の老舗。山梨県内で唯一の官報・政府刊行物取扱店でもある。
歴史ある本屋さんだが、甲府昭和イトーヨーカドー店は2017年オープンで、店内はいたって明るく開放感がある。
店長「平日は主婦や年配のお客様が多いのですが、土日はファミリー層が多いので、児童書にも力を入れています」

▲児童書は7000冊以上で、児童書コーナーは広いスペースを確保している。

ドトールコーヒーショップとつながっており、書店店内の壁面にはカウンターが設置されている。

▲カウンターからは甲斐駒ヶ岳など南アルプスの山々の眺めを楽しめる。

店長「ブックアンドカフェスタイルで軽食を楽しみながら、ゆったりとした時間をお客様にお過ごしいただけます」

店の中央あたりの棚には、サイン本のコーナーが充実している。書店員歴14年、文芸・文庫担当の山本さんの人望と力量だ。

▲サイン本がズラリ。大物作家の著書もある。

山本さん「帰省した際には必ず寄ってくださるお客様もいて、サイン本を揃えていることが認知されてきているのだと思います。
サイン会があるわけではないのに、作家さんがわざわざサイン本を作りに来ていただけることもあります。たとえば、このミステリーがすごい! 大賞・優秀賞受賞の佐藤青南先生もTwitter でお願いしたところ“直接お願いしていただいたから”と2回も来てくださいました。」

『たぶん、出会わなければよかった嘘つきな君に』（佐藤青南／祥伝社）

NetGalley作品詳細ページはこちら『たぶん、出会わなければよかった嘘つきな君に』

山本さん「今年の本屋大賞で、『ムゲンのi』がノミネートされている知念実希人先生も、『仮面病棟』などにサインしてくださっています。
作家さん同士のつながりで輪が広がったり、ゲラの感想をSNSで発信し、作家さんが見てくださって来店してくださることもあります」

山本さんは本の並べ方にもこだわりがある。

山本さん「文庫は出版社別ではなく、著者名の50音順にしています。読者はその著者の本を探しているとき、出版社ごとに並べていると、逆に見つけにくいです。著者ごとに並べることによって、他の出版社から刊行されている作品にも気づかれ、同じ著者の本をまとめて購入する方もいらっしゃいます」

▲複数の出版社で著書のある宮部みゆきさんも、1か所にまとまっている。

現在、甲府昭和イトーヨーカドー店で力を入れているキャンペーンは、山梨県周辺を舞台にキャンプ場でアウトドアを楽しむ女子高生たちを描いた漫画『ゆるキャン△』だ。

【ゆるキャン△9巻発売記念！あｆろ先生複製原画展大好評開催中！】複製原画展は27日まで。一部グッズ販売は26日までとなっております🏕️また、柳正堂書店オリジナルカレンダー付限定版も少しだけ在庫あります！きららコミックス1500円以上お買い上げでカバーも配布中✨お待ちしてます！！M🤓 pic.twitter.com/vcvCnWjPvU

— 柳正堂書店甲府昭和ＩＹ店 (@yumurasc) January 25, 2020

店長「素材を版元さんからいただき、柳正堂書店オリジナルのカレンダーを作りました。レイアウトからすべてコミック担当スタッフの手作りです」

▲カレンダーと漫画セットで税込み1573円。（カレンダー分売不可）

店長「漫画とカレンダーのセット売りです。一時は通販もしていたのですが、現在は店頭販売のみです。県外からわざわざお客様が来てくださることもあって嬉しいですね」

▲現在もう1つ取り組んでいるのは、高校生が選書した本の紹介だ。入り口に生徒の名前入りで本の推薦書が貼られている。

店長「専門家が選んだ本では学生の共感を得られないことがあるかもしれない。学生だからこそ、同年代に読んでほしいという本があるはずです。今後は高校生だけではなく、中学生、小学生が勧める本の紹介コーナーを作っていきたい」

柳正堂書店甲府昭和イトーヨーカドー店とNetGalley

そんな地域に密着した温かい本屋さん・柳正堂書店甲府昭和イトーヨーカドー店では、NetGalley（ネットギャリー）を活用している。

店長「NetGalleyは、仮にゲラを読まなくても参考になるんです。限られた掲載枠の中で、版元さんは作品を選んでいるため、掲載されている作品は基本的に版元さんが推したい本と捉えています。だからラインナップを見ているだけでも仕入れの参考になります」

山本さん「私がNetGalleyを使い始めたのは2017年12月ころ。新井見枝香さんの『探してるものはそう遠くはないのかもしれない』のゲラがNetGalleyにあると本人が発信していて、それを読みたいと思ったのがきっかけです。
NetGalleyでゲラをダウンロードした際にレビューを書かなければ、フィードバック率に影響が出るため、できる範囲でレビューやコメントを書くようにしています。そのコメントを使いたいと媒体から依頼がきて、掲載されたときは嬉しかったですね」

『探してるものはそう遠くはないのかもしれない』（新井見枝香／秀和システム）

NetGalley作品詳細ページはこちら『探してるものはそう遠くはないのかもしれない』

レビューをきっかけに取材を受けたり、出版社とつながりができることもある。だから山本さんには紙のゲラも多く届く。

山本さん「私は紙のゲラとNetGalleyと併用しています。例えば紙のゲラは自宅のブックスタンドに載せて、家事をしながら読むのに便利です。休憩時間や移動時には、いつも携帯しているスマートフォンで読みます。だから同じ作品を紙とネットで読むこともありますよ。
紙で慣れているとネットでゲラを読むことに抵抗がある人もいるようですが、使わないのはもったいない。
先日、本屋大賞のノミネートが決まりましたが、10冊自腹で買うのは大変です。その作品もNetGalleyにあったりするので助かります（笑）。
私たち書店員は発売前にできるだけゲラを読んで、面白いと思ったものをお客様に届けます。でも、ゲラを読むのは勤務時間外、プライベートの時間なんです。
だから隙間時間も無駄にせずに、1字でも多く読みたい。そして『これは面白い、たくさんの方に読んでもらいたいから仕掛けよう』と頑張ります。
私のやりがいは、そうして推している本をお客様がレジまで持ってきてくれて、私が会計できたときです。努力が報われて、幸せだなって思います」

【インタビュー後記】

書店員さんのこだわりや情熱を目の当たりにして、目頭が熱くなりました。いつも近い本屋さんでなんとなく本を購入していましたが、これからは推しの本屋さんを見つけて応援しようと決めました。
ところで、冒頭でお2人が持っている本の推薦メッセージは以下。

店長イチ推し

『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』（ブレイディみかこ／新潮社）
「日本人母とアイルランド人父の息子が主人公。民族間の軋轢やいじめを子供ながらの発想で乗り越えるのですが、大人でもはっとさせられます。だから、大人も子供も楽しめる、一生モノの課題図書。本屋大賞2019ノンフィクション本大賞受賞です」

NetGalley作品詳細ページはこちら『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』

山本さんイチ推し

『ムゲンのｉ』（上）（下）（知念実希人／双葉社）
「医療系ミステリーです。プルーフをいただいたのですが、夢中になって最後まで読みました。知念先生は現役医師ならではの作品をたくさん書かれていて、今年で3年連続本屋大賞ノミネートなのですが、今回は圧倒的な読み応えでした。とにかく人柄も含めて、知念先生が大好きです！」

NetGalley作品詳細ページはこちら『ムゲンのｉ』（上）（下）

お2人の推薦書、みなさまもぜひ読んでください。私も読みます。
私は新人作家なのですが、なんと新刊を、こんなに素敵に展開してくださっていました。サイン本も書かせていただき、感無量です。ありがとうございました。