NetGalleyのすすめ【第18回】 ~フリーPOP職人 こな・つむりさん インタビュー記~

こんにちは!NetGalley(ネットギャリー)の藤吉です。今回は、フリーPOP職人としてご活躍の こな・つむりさん をインタビューしました。ネットギャリーとの出会い、書店員時代のエピソード、そして現在のご活動内容など、多岐にわたってお話を聞かせていただきました。

▼こな・つむりさんが直近でNetGalleyで読んで、POPを描いた作品

書店員時代 羨ましかったゲラやサイン入り色紙

こな・つむりさんは学生時代に書店でアルバイトの経験があった。その後、結婚や出産を経て、生活も落ち着いてきた頃に、たまたま自宅近くに新規書店がオープンすることを知り、オープニングスタッフに申し込んだ。最初はパートとして勤務することになったのだが、1日のほとんどがレジカウンターの中で、会計やお問い合わせ対応をしていた。

「私、ホントに仕事ができない書店員だったんです…。接客は好きだったのですが、普通の人が普通にできることが全然できず…。本を手に取ってもらいたい、買ってもらいたいという思いは自分の中で常に持っていたのですが、基本的な業務が出来ていないので、新しい仕事を任せてもらえませんでした。それはそうですよね。まわりに迷惑をかけることもあり、自分ではどうしようもなく、辞めたいと思うことも多々ありました。」

他の書店に行ってみると、売り場には作家のサイン入り色紙が展示されていて、その賑わいに羨ましさを感じていたという。SNSで情報収集をする中で、「ゲラ」というものの存在を知るが、どうすればゲラを読ませてもらえるのかがわからなかった。知り合いの書店員にSNSを通して聞いてみたところ、こな・つむりさんのSNSアカウントは非公開設定になっていることをまずは指摘された。アカウントから投稿内容や人柄が見えてこず、これでは出版社と繋がろうにも繋がってもらえない。まずは、アカウントを公開設定に変更するところから、こな・つむりさんは始まった。

「Twitterを中心に、出版業界の方と少しずつ繋がりを持てるようになってきました。ある書店員さんからネットギャリーを紹介してもらい、そこでようやくゲラに触れることができました。レビューを投稿すると出版社の方にも読んでもらえて、そこから出版社さんとのつながりも増えてきたことを思い出します。ゲラを読んでみたいけど、もらえる機会がない、という私と同じような思いをしている書店員さんって多いんじゃないですかね。本を売るためにも中身を知らなければ、売り方の選択肢が増えない。取り扱う全ての本を買って読むことはできませんので、ネットギャリーで読ませてもらえることはとてもありがたかったです。」

NetGalleyTOPページ

こな・つむりさんは、2018年からネットギャリーに会員登録をしている。

「POP、描けるんじゃない?」と上司から一言

ゲラを読めるようになったものの依然として業務に苦戦する日々が続く。そんなある日、「POP、描けるんじゃない?」という上司の一言に転機が訪れた。

「私がハンドメイドを作れたり、絵が描けることを知っていた上司が、私にPOPを描くことを勧めてくれました。その日から書店業務に必死に食らいつきながら、POPを描く生活が始まりました。私の可能性を見出して、声をかけてくださった上司の存在が、本当にありがたかったです。」

POPを描くと、より商品を手に取ってもらえるようになり、仕事も楽しくなってきたこな・つむりさん。POPに加えて、フリーペーパーなども制作するようになった。
「テレビアニメの主題歌CDを販売したときの話です。そのアニメは、私の地元が舞台であり、アニメファンの方々が聖地巡礼として全国からはるばる来られました。ただ、各所への移動手段がとても分かりづらいエリアで、行き方がわからずに断念して帰られる方の声をSNSでよく見かけました。地元民として使命感が湧き、誰でも楽しく聖地巡礼ができるようにと、地図を作り、CD売り場の隣に置いて無料配布をしてみました。ツイートした途端に、反響を呼び、ファンの方々が当店も巡礼地の1つとして来てくださるようになりました。毎日300枚の補充が必要になるぐらいご来店いただけるようになり、併売したグッズもお土産買いとしてたくさん購入いただけました。」

そうした実績を積み重ね、こな・つむりさんは、本部へ異動することになった。そこからは仕事内容も大きく変わったという。

「POP制作だけでなく、売り場作りはもちろん、企画立案から担当するようになりました。展開場所と期間に対する売上予算もあり、数字に追われながら、POPを作る日々が始まりました。POPは、月に80枚ぐらい描いていました(笑)。当然、仕事ですので、売上が伴っていないと指摘されますが、ありがたいことにどの企画も数字がついてきてくれました。3店舗を担当していたのですが、2m以上ある脚立を車に積んで、各店舗を回って、季節ごとに飾りつけを行う。芥川賞・直木賞の発表日は、半日で2店舗の売り場作りでした。クリスマスが終わった瞬間からお正月モードに急いで切り替えるときが毎年大変です。遠方の店舗にはさすがに行けないので、POPなどを段ボールに入れて発送し、現地スタッフさんに飾り付けをお任せする段取りをします。その後、私は急いで2店舗の飾り付けを行う、というハードなスケジュールでした。そうした作業を繰り返していると、店舗のスタッフさんにも喜んでもらえ、また私の作業を手伝ってくださっていた方が、のちにその作業を引き継いでもらえるようにもなりましたので、一生懸命やってよかったです。」

▼書店員時代に飾りつけを担当した売り場やPOP

夏休みの宿題は9月1日から始まっている

お客様から支持される売り場を作るには、一体どのような要素が必要なのかを質問してみた。

「この本を売りたいと思ったら、私、その分野のオタクになれるんです。オタクになる方法は、調べ尽くすことです。幼少期から“調べる”ということに慣れていました。夏休みが明けて、2学期が始まる9月1日。まわりの友だちは、膨大な夏休みの宿題に開放されて、涼しげに新学期を迎えていますが、私の家では、9月1日から来年の夏休みの自由研究が始まるんです…。「太陽について調べよう!」となったら、1年をかけて、太陽について調べる。長良川がテーマになったときは、上流から下流までキャンプしながら、ひたすら川を家族全員で調べ(させられ)る。季節ごとの川の様子や水質、何から何まで1年がかりで徹底的に調べました。カビを題材にした年は、1年間、カビと格闘でした。今、振り返るとありえないですね。(苦笑)。でもその観察癖が、今になって活きていると思います。調べることが全然苦じゃないんです。オタク同士だからこそ通じ合えるポイントを売り場に反映させることができると、お客様に、『この店にはデキるオタクがいる!』と評価いただけて、そこからまた反響が生まれます。“デキるオタク”は、私にとって最高の誉め言葉です。」

字は上手じゃなくて良い!手書きだから伝わるPOP

現在は、出版社からオファーを受けて、書店店頭の拡材を制作したり、食品メーカーからポスターなどの宣伝物の制作依頼があったりと、業界の幅も広げて、フリーで活動をされているこな・つむりさん。POPを描くコツを聞いてみた。

「POP作り講座の講師をしていると、受講者さんから『字は汚くても大丈夫でしょうか…?』と毎回質問をいただきます。私自身、字は上手くありません。自分の字を個性と受け入れられるようになるまで時間がかかりました。きっかけは筆ペンでした。筆ペンで字を書くと、途端に書き癖が個性のように映り、自分の字の見え方が変わります。PCソフトの書体で書かれた字よりも、むしろ汚くても一生懸命書いた字の方が、お客様の目を引きます。振り向いてもらわないと、せっかく作った飾りつけも無かったことになってしまいます。一生懸命さが大事であり、手書き感、手作り感をあえて残し、この本をとにかく読んでほしいんです!という熱量をお客様に届けることを常に意識しています。」

読書体験はやがて読書習慣に変わります!

今年はさらに活動の幅が広がるこな・つむりさん。初の自著『ことば変身辞典』がカンゼンさんより5月11日に刊行予定。発売前にゲラがNetGalleyに掲載されている。会員としてNetGalleyを使うだけでなく、出版社と連携をして、著者としても活用している。

「読書から得られる体験は、他のエンタメとはまた一味違った感覚です。その特別な体験を一度も味わったことがない方って、まだまだたくさんいると思います。『本ってこんなにおもしろいんだ。』『すごい読書体験をした…!』となるべく早い段階で経験していただきたいです。最初は、自分の推しアイドルがお薦めしていた本を読んでみる、でもいいのです!まずは読書にチャレンジしてみてほしいです。それが読書体験となり、やがては読書習慣へと変わります。読書体験に一歩を踏み出してもらえるようなきっかけ作りができたらと思い、SNSで発信をしたり、POPを作ったり、今後も色々と活動していこうと思います!」と今後の抱負を力強く語っていただいた。

インタビュー後記

インタビューが盛り上がり、気が付けば2時間ぐらい話し込んでしまいました。お忙しいところ、ご対応いただき、ありがとうございました!カンゼンさんから刊行の『ことば変身辞典』、楽しみです!さっそく本屋さんで予約をしてきました!

連載:NetGalleyのすすめ~書店員インタビュー記~
▶︎https://honya-trip.com/tag/netgalley/

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