こんにちは。みなさんは名古屋にどんなイメージをお持ちですか。「小倉トースト?」「名古屋城?」「中日ドラゴンズ?」いろいろあるかもしれませんが、実は名古屋には素敵な本屋さんもたくさんあるんです。今回はその中でも「名古屋の本屋さんといえばここ!」と言っても過言ではない、“ちくさ正文館書店”についてご紹介します。
ちくさ正文館書店の基本情報
ちくさ正文館書店は創業1961年の名古屋の老舗書店です。
名古屋駅から地下鉄一本でアクセスできて、最寄駅からも徒歩圏内。多くの本好きの名古屋市民から長年親しまれています。見た目はいたって普通の、いわゆる“街の本屋さん”。少し年季が入りつつもキレイに磨かれた床や棚などは良い味を出していて、気取った雰囲気は一切ありません。店内に入っての最初の印象も「普通の本屋さんかな?」といった感じです。
実際、お店の半分は雑誌・コミック・学習参考書・ちょっとした文具などが並んでおり、普通の書店とあまり変わりません。有名どころのコミックの新刊などきっちり押さえてあり、地元の学生さんからも親しまれていそうな雰囲気です。
しかし、店のもう半分側のスペース、人文書・文芸評論・詩歌・映画・演劇関連書籍が置いてあるエリアに入れば、この書店の個性に気づかされます。正直なところ、視覚的な華やかさはありませんが、商品のラインナップが圧倒的に良いのです。
目次
大型のチェーン店にない魅力あり
大型書店の特徴
ところでみなさんは普段本屋さんによく行きますか?
「話題の映画やドラマの原作本」が華やかなポップを添えられて紹介されていたり、「本屋さん大賞」や「夏の文庫100」といったフェアが組まれていたりしますよね。
映像作品のレンタルコーナーやカフェスペースの併設や、雑貨なども一緒に販売するなど、各店舗お客さんに喜んでもらう工夫をたくさんされています。
でも、これらの本屋さんは、肝心の「本」の品ぞろえが面白くないと感じたことはありませんか。
「どこも似たような本ばかりを販売しているなあ」、「読んでみたいと思える本がないなあ」など、少し物足りなさを感じたことはありませんか。
そういう方にこそ、ちくさ正文館書店をおすすめします。
こだわりの選書
一般的な書店が主に売上データなどを元に取次(出版業界の問屋さん)から本や雑誌を入荷しているのに対し、ちくさ正文館書店では店員自らが商品を選んで入荷しています。その選書のレベルが高く、長年の知識と経験がなければ選べなかったであろう書籍が多数取り揃えられています。
本の並びもセンスの塊
選書だけでなく、陳列も個性的。一般的に、商品は書店員が管理しやすいように出版社や作家・大まかなジャンルごとに陳列されます。しかしここでは「この本に興味のある人はこの本もおすすめですよ」と囁かれているような、なんとも絶妙な本たちが隣同士で並んでいます。よくあるチェーン店の本屋さん、古本屋さん、ネット書店、図書館のどこでも出会わなかったけど、“自分にとって必要と思える本”とスッと対面できる魔法のような陳列です。
文庫コーナーの並びも面白いです
文庫コーナーで驚くのはちくま文庫と岩波文庫が売り場の目立つところに、それなりのスペースを確保されて陳列されていることです。
この2つのレーベルは内容は確かに充実していますがやや専門的で、どうしてもエンタメ小説をたくさん出している出版社(新潮・講談社・文春・集英社・KADOKAWAなど)に比べると、売り上げが伸びにくい傾向にあります。
そのためよくある本屋さんではちくま文庫や岩波文庫は、文庫コーナーでも奥まった場所に陳列されたり、陳列スペースが狭かったりすることが多いのです。
そのちくま文庫と岩波文庫が人気出版社と同列かそれ以上の扱いで陳列されていることにも、少し感動しました。
そしてちくさ正文館を愛するお客さんたちにとっても、この棚割りで合っているでしょうし、一般的な書店との差別化が本当に上手なお店だと思います。
ポップは必要最低限
本棚自体がお客さんを引き付ける魅力を十分に持っているからと思われますが、店内にポップなどの広告・宣伝は必要最低限しか飾られていません。それでもあの本もこの本も手に取ってみたいという気持ちにさせられます。「本当の意味で商品の力で戦っている」と惚れ惚れする売り場です。
在庫数は決して多くはないけれど…
“街の本屋さん”としてはやや広めのお店ですが、郊外の大型書店などと比べると、やはり売り場面積はそこまで広くありません。ピンポイントで「あの本が欲しい」という時は、在庫量の多い書店やネット書店を利用した方がよいでしょう。そして、「何か素敵な本に出会いたい」という場合こそ、限られた在庫数でありながら1冊1冊の質が高いちくさ正文館に行ってみてください。在庫数が多くなくても満足度の高い書店は作れることを証明してくれるお店です。
こんな人に特におすすめ
ちくさ正文館は素敵な書店ですが、個性がしっかり打ち出されている分、万人受けするタイプではありません。本好きの方の中でも、特に以下に当てはまる方におすすめします。
チェーンの大型書店に飽きてきた
人文系・芸術系の本が好き
書店の空間を楽しむのではなく、純粋に「本」との出会いを楽しみたい
有名ではないけど良質な本に出会いたい
新しい刺激がほしい、新しい関心事を持ちたい
ちくさ正文館の店長について
店長の古田一晴さんは、学生時代にちくさ正文館書店にアルバイトとして入社し、大学卒業後に正社員となってから40年以上勤め続けていらっしゃいます。店長でありながら、現場から離れることなく、今日も熱心に売り場を作っていらっしゃる姿は、遠目から見ても格好良いです。正直なところ、はじめは少し怖そうなイメージを持っていましたが、実際にお話してみるとフランクな方でした。飄々としつつも優しさあふれる対応をしていただき、本当にありがたかったです。多くの人が古田店長のファンになる気持ちがよく分かりました。「ちくさ正文館自体のことや出版業界のことをもっと聞いてみたい」と思える、魅力あふれる店長さんです。
本の紹介
古田店長の著書を紹介します。
『名古屋とちくさ正文館』
出版社:論創社 ISBN-13 : 978-4846012724 発売日:2013年9月1日 価格:1600円+税
<引用文>
◇「僕とちくさ正文館の立ち位置はずっと変わっていない。同じ場所で本を売り続け、文化状況の定点観測をずっとしてきたことになる。」-40pより引用-
◇「書店独自のフェアというものはそれこそ時代状況の中から生まれてきますが、基本的にはその店の地域性と客層、本の売れ方、担当者の編集力などがクロスして企画されるのが王道だと思う。」-42pより引用-
◇「書店の場合の棚の判断は詩と芸術評論を見ればよくわかる。そこが一番面倒だから、品揃えや選書が店の欠落、もしくは個性としてすぐ出てしまう。」-116pより引用-
◇「お客様と棚のどこか1ヵ所でも方向性が合致すれば、印象づけになります。」-154pより引用-
古田店長のちくさ正文館での活動を通して、名古屋の文化風土や出版業界・書店の事情・変遷について細かく触れられています。インタビュー形式で内容が頭に入りやすく、それでいて他ではあまり知ることのできない情報が満載の1冊です。チェーン店の書店で、出版業界の構造に対して違和感を覚えながら勤務している・していた方は、特に面白く読めると思います。また、この本を読むことでより一層ちくさ正文館と古田店長のことが好きになります。
まとめ
以上、ちくさ正文館書店さんのご紹介でした。華やかさやキラキラした雰囲気はありませんが本当に素敵な本屋さんで、これからも名古屋になくてはならない存在だと思います。現在名古屋にお住まいで普通の本屋さんに飽きてきた方や、県外から名古屋に来る本屋好きの方は、ぜひ一度訪れてみてください。